今こそ求められる『繋がり』と一人一人の『第一歩』

お客様応対のお仕事の経験をもとに、現在は対人支援のお仕事に主に取り組まれているメンバーによるコラムです。

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1 日本の社会情勢は、特に少子高齢化の流れが止まらない。

国立社会保障、人口問題研究所によると、2021年の出生数は、80万5千人程度となり、これは前回調査の1998年からの20万人減るのに16年かかった記録からすると、2021年の80.5万人まで20万人減るのに7年しかかかっていないことになるという。

日本の活動の源である生産年齢人口は2050年代には5千万人を割ると推計され、成長に大きくブレーキがかかる社会がくる。企業も含めた一般の組織活動においても、人の確保が困難な時代を迎える。

2 従来型の成長志向と富を重視する資本主義的社会成長論だけでは、人々は幸福になれていないという限界点が見えてきているのではないだろうか。

社会では、いじめ、虐待やハラスメントが横行し、また自ら命を絶つ自死数は、日本においては毎年2万人を下らない現実を重く受け止める必要がある。

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3 こうした実情を踏まえたうえで、これからの生き方の支えとなる視点としてふたつあげたい、すなわち「幸福」と「つながり」をキーワードとして提示しておきたい。

4 人は幸福に生きることをより念頭において、生活を組み立てる時代が来ているのではないか。

その際カギとなることばに、「利他」と「縁起」がある。

すなわち資本主義の精神に則りやみくもに自らだけが成功を求め、利益を享受することでは、社会全体の幸福には至らない。

人は言うまでもなく社会性の動物として、個人だけでは生きられない。

社会の中にあって、他者の幸福すなわち「利他」の視点を組み入れてこそ、自らの幸福感を一層充実させることが出来ると考えるべきである。

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戦後80年弱進めてきた戦後復興の国造りには、個人の富と社会の大きな格差につながる面はあったが、他者と共にある社会の構築には十分に機能しなかった。

幸福であるということは、すなわち豊かであるということを示す。

豊かであるとは、物質的にもさることながら、それ以上に心の豊かさが必要となる。

心が自由に自らの意志を表現できることに由来する。100人いれば100通りの、千人いれば千通りの自由があってよい。

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自国だけの利益に固執することなくまた、個人の自由の権利を束縛し、社会から疎外しない。このことは、いま求められる多様性社会にもつながるものと考えられる。

多様的であることに寛容であることが、各自の自由度を増し、心の豊かさにつながると確信する。

自らも自由であるとともに、他者も自由であることを寛容できることである。

相互に自由な意思決定が出来る人々の繋がりこそ、社会の中での緩い紐帯としてのこころの居場所につながると考える。

5 今一つが「縁起」すなわち「つながっている」ことへの歩みである。

社会活動において、横に連携となる、企業や組織を超えた横断的なゆるい繋がりをすすめていくことが求められる。そのことで、新しい活動やアイデアと他者支援の源泉となりうるエネルギーとなると考える。

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歴史を振り返えれば、近代化と高度成長期を経て、人々のくらしを支えた地域や家族による強いつながり・紐帯から解き放たれ、社会はより個人の活動の自由や解放を手に入れてきた。

今日IT化の激しい流れの中で、人々はある意味孤独感に苛まれるも、再び旧来の家族や地域のつながりへの回帰を求めるのは現実的ではない。

将来に向けての新たな取り組みへの発想は、家庭・職場という場に加えて、第3の居場所としての社会横断的な場の育成が、人にこころの回復のきっかけを与える起点となるであろうことを触れておきたい。

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一方で、社会としてつながることの具体的なあり方のヒントになるのが、「ケア」の考え方である。

各々専門の活動を通じて連携し合い、支援の情報を共有し、被支援者に必要とされる支援を都度、その分野のエキスパートが対応していく「ケア」の手法が、これからの社会ニーズに対応していく一つの解決の手段となろう。

6 相談員として、人的交流による組織を超えた経験は、問題の解決に対し社内や組織内部に目を向けているだけでは、従来からの経験値にのみとらわれ、多様な働き方への解決が充分に図れないことを気づかせてくれる。

むしろ、視線を今いるところ、普段の活動圏から外に向けて、一歩踏み出るアウトリーチの活動こそが、多様な人材に触れ、共感し、情報を共有することにより、自ら抱える問題の解決の糸口を提示してくれる機会となることを気付かせてくれる。

自ら一歩踏み出る働きかけこそが、外部とのつながりとなり、自らの立ち位置を再確認出来る場所作りとなるのではないか。

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参考文献

  • 「文化人類学の思考法」 松村圭一郎・中川理 石井美保 編   世界思想社
  • 「本当の大人」になるための心理学」 諸富祥彦著        集英社新書
  • 「ネガティブ・ケイパビリティ答えの出ない事態に耐える力」 帚木蓬生著 朝日新聞出版
  • 「ひきこもり白書」 一般社団法人ひきこもりUX会議