私はサッカーの審判員資格を持っており、小学生の試合でホイッスルを吹くことがあります。
例え子供の試合でも審判には毅然とした態度が必要で、判定において曖昧な姿勢を見せれば 次第にゲームの規律が乱れ、緊迫感を失っていくものです。

苦情対応においても、この「毅然とした態度」が必要だと思うケースがあります。
私は生命保険会社のお客さま相談室に勤務しています。当社ではお客さまのお申し出(含、苦情)は コールセンターや現地の営業所で受け付け、その中でハードクレームに発展したものはお客様相談室が 関わるという体制となっています。
ハードクレームを含め、苦情を申し立てるお客さまの99%以上は善良なお客さまだと理解しています。 しかし、お客さまの言い分として理解できるラインを超えた苦情が存在するのも事実です。

「こんな保険には入った覚えがない」との苦情にお客様相談室で対応することとなりました。
契約を取り扱った担当者は死亡しており、当時のやりとりについて事実確認はできません。 ただ、保管されていた申込書類からは、お客さま自身で申し込んだ形跡が見てとれます。 また、契約内容に関するお知らせを会社から毎年送付しており、保険期間内に入院給付金や 手術給付金を何度か受領された記録もありました。

このような苦情には、他の善良なご契約者のためにも毅然と対応する必要があります。 お客さまの主張があまりに強く、営業所レベルでは解決できなかったものですが、お客様相談室から あらためてきちんと説明を重ねたところ、申し立てを取り下げていただくに至りました。
事業者と比べて立場の弱い消費者を保護するために消費者契約法等があると勉強しましたが、 「決して弱い消費者ばかりではないんだな」というのが正直な感想です。 消費者という立場に乗じて行き過ぎた申し出を行ない、何らかの恩恵を得ようとする「強い消費者」 は本来保護すべき対象とは違うと思います。

近年、消費者の権利意識が高まっていますが、権利は義務や責任とセットで語られるもの。 権利を主張する部分だけが独り歩きするのは良いことではありません。
企業所属の消費生活アドバイザーとして、消費者と企業がほんとうに対等の立場で取引できる日が 来ることを心から望んでいます。



column 047
苦情対応のなかで思うこと
望月 高明
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