いきなりですが、けっして奇をてらっての発言ではありません。私は、相談室という仕事に就いてから、人の心に触れる機会が多くなりました。最近は、特に目に見える「もの」と目には見えない「もの」への関心を強めています。「フォース」って?そうです!ご存知の映画「スターウォーズ」の中で頻繁に登場する、あの主役が使いこなす「霊力」みたいな「力」(フォース)のことです。自らは動くことなく、「フォース」の力で相手を意のままにコントロールしたり、止まっている物を持ち上げたりという目には見えない「力」です。 大好きな映画です。

SFの世界だから可能なおとぎ話ではあるのですが、振り返ってみると、私達の現実社会も実に多くのこの目には見えない「力」(フォース)に満ち満ちているように思えてなりません。まず、私達の日常生活でコミュニケーションのツールは、言葉で通じ合うよりノンバーバルなコミュニケーションが7割8割です。「最近元気ー?」と挨拶を交わす際も、相手の様子がどのようか感じとる事が出来るかどうかと言うことで、言葉では伝わらないことも沢山あります。また、生活の中で「気」で表す表現(気を配る・気が合う・気力など)が実に多いことも、私達が普段から意識はせずに目には見えない「何か」を大切にしてきた証ではないでしょうか。

先日も、仕事で事務用度品を私の手元に届けてくれるよう社内の人に頼みました。あとで聞いたことですが、その品物は社内にはなく、別倉庫までわざわざ取りに行かなくてはならない物でした。「後で用度請求しておきます。」で、私からの依頼は済んだはずなのですが、その人は自ら足を運んで倉庫から取って来て届けて下さいました。感謝!感謝!です。本来私が意図した行動以上のプラスの効果を生み出してくれました。現実世界でのまさに「フォース」の働きとは言えないでしょうか。私の意を汲んで信頼関係という目には見えない力が働いたのです。

しかし一方で近頃、私達の生活パターンや行動様式は、目に見えるもの、形として捉えられる物に過度に囚われ過ぎてはいないかと言う疑念がわいてきます。目に見える物への過信が、様々な心のひずみとして生活の中で現れてきているのではないかという不安です。

相談室というポジションで、物ではなく、人と人とが向き合って、少なからず人の心に触れる仕事をするようになってから、人の心の持ちよう、心の動きに強い関心を持つようになりました。電話のむこうの方は、何故こんなに怒っているのだろう。怒りの根源はどこから生じているのか。その口調から想像される年齢や容姿に至るまで、その人の背景をイマジネーションしてみます。怒りのルーツは意外なところから起こっているかもしれません。心理学では、心の表層界、下層界として認識されている現象です。まさに目に見える世界と目には見えない世界が混在する領域です。

この様な怒りや不快の表現の仕方は、日本人独特の性質からなのか。あるいはもっと広く、人間本来が持っている感情表現なのかと言ったことまで思いを馳せてみます。日本人の歴史の中で営々と培ってきた精神や礼節、スピリットみたいな部分を遡って調べて行く、心のありかをたどる旅を始めてみたいと考えています。柳田国男や折口信夫といった民俗学の世界にたどり着くかも知れません。

心に触れる部分は、一方で危険も伴うのですが、相談員として少しでも心の内側に触れる仕事をしていきたいと願っています。社会の窓口として外界と接していくには、人は様々な社会問題の背景の中で、不安や怒り、喜びなど複雑な感情を抱きながら日々揺れていることを忘れてはなりません。社会でリアルタイムに起こっている事象に常にアンテナを張りながら、お客様の悩みを聴く楽しい毎日なのです。
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フォースを信じますか?
宇野 浩 第18期消費生活アドバイザー
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